が来て返辞を伝えた。薫は、
「始終お近い所に住んでおりながら、何と申す用がなくて伺いますことは、なれなれしすぎたことだとかえってお咎《とが》めを受けることになるかもしれませぬと御遠慮をしておりますうちに、世界も変わってしまいましたようになりました。お庭の木の梢も霞《かすみ》越しに見ているのですから、身にしむ気のする時も多いのです」
と取り次がせた、物思わしそうにしている薫の姿の気の毒なのを中の君は見て、あの人が惜しむどおりに大姫君が生きていて、あの人の所に迎えられておれば、近い家のことで、始終消息ができ、花鳥につけても少し愉《たの》しい日送りができたであろうがなどと、姉君を思い出すと、忍耐そのものが生活であったような宇治の時のほうが、かえって悲しみも忍びよかったように思われ、故人の恋しさのつのるばかりであった。女房たちも、
「世間の習いどおりに、うとうとしくあの方様をお扱いになってはなりませぬ。今こうおなりあそばしてからこそ、あの方様の御親切の並み並みでないことがおわかりになった御感謝の心をお見せあそばすべきでございます」
こう言って勧めているのであったが、にわかに自身で話に出るよ
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