卿親王の夫人に定まってしまったのを見て、深くお愛しになっているに違いないと世間も中の君をりっぱな女性として認め、かつ驚いた。
源中納言はこの二十日ごろに三条の宮へ移ることにしたいと思い、このごろは毎日そこへ来ていろいろな指図《さしず》をしていたのであるが、二条の院に近接した所であったから、中の君の着く夜の気配《けはい》をよそながら知りたく思い、その日は夜がふけるまで、まだ人の住まぬ新築したばかりの家にとどまっているうちに、迎えに出した前駆の人たちが帰って来て、いろいろ報告した。兵部卿の宮が御満足なふうで新婦を御大切にお扱いになる御様子であるということを聞く薫は、うれしい気のする一方ではさすがに、自身の心からではあったが得べき人を他へ行かせてしまったことの後悔が苦しいほど胸につのってきて、取り返し得ることはできぬものであろうかと、こんなうめきに似た独言《ひとりごと》も口から出た。
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しなてるやにほの湖に漕《こ》ぐ船の真帆《まほ》ならねども相見しものを
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とあの夜のことでちょっと悪く言ってみたい気もした。
左大臣は六の君を兵部卿の宮に
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