を見て、遠い路《みち》に馴《な》れぬ女王《にょおう》は苦しさに歎息《たんそく》しながら、

[#ここから2字下げ]
ながむれば山より出《い》でて行く月も世に住みわびて山にこそ入れ
[#ここで字下げ終わり]

 と口ずさまれるのであった。変わった境遇へこうして移って行ってそのあとはどうなるであろうとばかり危《あや》ぶまれる思いに比べてみれば、今までのことは煩悶《はんもん》の数のうちでもなかったように思われ、昨日《きのう》の世に帰りたくも思われた。
 十時少し過ぎごろに二条の院へ着いた。まぶしい見も知らぬ宮殿の幾つともなく棟《むね》の別れた中門の中へ車は引き入れられ、そのころもう時を計って宮は待っておいでになったのであったから、車の所へ御自身でお寄りになり、夫人をお抱きおろしになった。夫人の居間の装飾の輝くばかりであったことは言うまでもないが、女房の部屋部屋にまで宮の御注意の行き届いた跡が見え、理想的な新婦の住居《すまい》が中の君を待っていたのである。
 宮がどの程度に愛しておいでになるのか、妾《しょう》としてか、情人としての御待遇があるかと世間で見ていた八の宮の姫君はこうしてにわかに兵部
前へ 次へ
全25ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング