のであった。
出立が早くできないでは日が暮れると女房らも言い、迎えの人たちも促すために、中の君はあわただしくて、今から行く所がどんな所かと思うことで不安な落ち着かぬ悲しい気持ちを抱きながら車上の人になった。大輔《たゆう》という女房が、
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ありふればうれしき瀬にも逢《あ》ひけるを身を宇治川に投げてましかば
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と言って、笑顔《えがお》をしているのを見ては、弁の尼の心境とはあまりにも相違したものであると中の君はうとましく思った。もう一人の女房、
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過ぎにしが恋しきことも忘れねど今日はた先《ま》づも行く心かな
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この二人はどちらも長くいた年寄りの女房で、皆大姫君付きになるのを希望した者であったが、利己的に主人を変えて、今日は縁起のよいことより言ってはならぬと言葉を慎んでいるのもいやな世の中であると思う中の君はものも言われなかった。道の長くてけわしい山路であるのをはじめて知り、恨めしくばかり思った宮の通い路の途絶えも無理のない点もあるように思うことができた。白く出た七日の月の霞《かす》んだの
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