とけ》に仕え、ますますこまやかな交情を作っていきたかった、とこんなことさえ思われる薫には、弁の尼姿さえうらやまれてきて、身体《からだ》を隠すようにしている几帳《きちょう》を少し横へ引きやって、親しみ深くいろいろな話をした。見た所はぼけたようではあるが、ものを言う気配《けはい》などに洗練された跡が見え、美しい若い日を持っていたことが想像される。
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さきに立つ涙の川に身を投げば人におくれぬ命ならまし
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悲しそうな表情で弁の尼は言った。
「それも罪の深いことになるのですよ、そんな死に方をしては極楽へ行けることがまれで、そして暗い中有《ちゅうう》に長くいなければならなくなるのもつまりませんよ、いっさい空《くう》とあきらめるのがいちばんいいのですよ」
とも薫は教えた。
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「身を投げん涙の川に沈みても恋しき瀬々に忘れしもせじ
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どんな時が来れば少しでも心の慰むことが発見されるのだろう」
と薫は言い、終わりもない哀愁をいだかせられる気持ちがした。
帰って行く気もせず物思いを続けているうちに日
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