も暮れたが、このまま泊まっていくことは人の疑いを招くことになりやすいからと思い帰京した。
源中納言の悲しんでいた様子を中の君に語って、弁はいっそう慰めがたいふうになっていた。他の女房たちは楽しいふうで、明日の用意に物を縫うのに夢中になっていたり、老いて醜くなった顔に化粧をして座敷の中を行き歩いていたりしている一方で弁は、いよいよ世捨て人らしいふうを見せて、
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人は皆いそぎ立つめる袖のうらに一人もしほをたるるあまかな
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と中の君へ訴えた。
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「しほたるるあまの衣に異なれやうきたる波に濡《ぬ》るる我が袖
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世間へ出て人並みな幸福な生活が続けていけるとは思われないのだから、ことによってはここをまた最後の隠れ家として私は帰って来るつもりだから、そうなればまたあなたに逢《あ》うこともできますが、しばらくでも別れ別れになって、寂しいあなたの残るのを捨てていくかと思うと、私の進まない心はいっそう進まなくなります。あなたのような姿になった人だっても、絶対に人づきあいをしないものではないようなのです
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