言って、尼になっていた。そして引きこもっていた部屋《へや》から薫はしいて呼び出して、哀れに変わった面影のその人を見た。いつものように大姫君の話を薫はして、
「ここへは今後も時々私は来るつもりなのですが、知った人がいなくなっては心細いのに、あなたがあとへ残ってくれるのは非常にうれしい」
など皆も言うことができず泣いてしまった。
「世の中をいとえばいとうほど延びてまいります命も恨めしゅうございますし、また私をどうなれとお思いになって、捨ててお死にになったのかと女王《にょおう》様も恨めしゅうございまして、人生に対して片意地になっておりますのも罪の深いことと思われましてね」
と、尼になるまでの気持ちを弁の訴えるのも老いた女らしく一徹に聞こえるのであったが、薫はよく言い慰めていた。非常に年は取っているが、昔の日に美しかった名残《なごり》の髪を切り捨て後ろ梳《ず》きの尼額になったために、かえって少し若く見え雅味があるようにも思われた。故人の恋しさに堪えない心から、なぜあの人の望みどおりに尼にさせなかったのであろう、そしたならあるいは命が助かっていたかもしれぬではないか、そして二人して御仏《みほ
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