わからぬお返辞を申し上げたりすることになってはならないと御遠慮がされる」
 と言い、中の君は気の進まぬふうであったが、御好意に対してそれではと女房らに諫《いさ》められて、中の襖子の口の所で物越しの対談をすることにした。気品よく艶で、今度はまた以前よりもひときわまさったと女房たちの目も驚くほど美しさがあって、だれにもない清楚《せいそ》な身のとりなしの備わっている薫は、これ以上の男がこの世にはあるまいと見えた。中の君はこの人に亡《な》き姉君のことをさえまた恋しく思われ、身に沁《し》んで薫を見ていた。
「取り返しがたい方のことも、今日は縁起を祝わねばなりませんからお話をさし控えたほうがよろしいでしょう」
 と中納言は言い、ややしばらくして、また、
「今度おいでになるお邸《やしき》の近い所へ、私の家もまたすぐに移転することになっていますから、夜中でも暁でもと能弁家がよく言いますように、何事がありましても私へ御用をお言いくださいましたなら、生きておりますうちはどんなにもしてあなた様のために尽くそうと私は思っているのですが、あなたはどう思ってくださいますか、御迷惑にはお感じになりませんか。出すぎた
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