先に期していたのであったと思い、大姫君の生きていたころの様子、話した心を思い出して、絶対に自分を避けようとはせず、もってのほかなどと自分をとがめるようなことはなかったのに、自分の気弱さからついに友情以上のものをあの人にいだかせずに終わったと考えると、胸が痛くさえなるほどに残念であった。父宮の喪中にここから仏間にいるのをのぞいて見た北の襖子《からかみ》の穴も恋しく思い出されて、寄って行って見たが、中の室《へや》は戸が皆おろしてあって暗いために何も見えない。女房も薫の来たことによって昔を思い出して泣いていた。中の君はましてとめどもなく流れる涙のために茫《ぼう》となって横たわっていた。
「伺うことのできませんでした間に、何をどうしたということはありませんが、絶えぬ思いの続きました一端でもお話をいたして心の慰めにさせていただきたいと思います。例のように他人らしくお扱いにならないでください。いよいよ今と昔の相違を深く覚えることになって悲しいでしょうから」
 と薫から中の君へ取り次がせてきた。
「失礼だとは思われたくはないけれど、私は今気分も普通でなくて、何だか苦しいのだから、いっそうそんなことで
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