お世話はいけないかもしれぬのですから、自分の考えをよいこととばかり信じても行なえませんから、お尋ねするのです」
こう言うと、
「この家を永久に離れたくないように思われます私は、近くへ来るなどとおっしゃるのを承っていますだけでも心が乱れまして、何とお返辞を申し上げてよろしいかもわかりません」
所々は言おうとする言葉も消して、非常に物悲しく思っている様子の見えるところなどもよく大姫君に似ているのを知って、自身の心からこの人を他へやることになったとくちおしく思われてならぬ薫であったが、効《かい》のないことであったから、あの以前のある夜のことなどは話題にせず、そんなことは忘れてしまったのかと思われるほど平静なふうを見せていた。近い庭の紅梅の色も香もすぐれた木は、鶯《うぐいす》も見すごしがたいように啼《な》いて通るのは、まして「月やあらぬ春や昔の春ならぬ」という歎きをしている人たちの心を打つことであろうと思われた。さっと御簾《みす》を透かして吹く風に、花の香と客の貴人のにおいの混じって立つのも花橘《はなたちばな》ではないが昔恋しい心を誘った。つれづれな生活の慰めにも人生の悲しみを紛らわすため
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