と想像されて、つたない中に言ってある心を身にしむように中の君は思い、筆任せに、それほど深くお思いにならぬことであろうと思われることを、多くの美しい言葉で飾ってお送りになる方の文《ふみ》よりもこのほうに心の引かれる気がして、涙さえこぼれてきたために、返事を自身で書いた。
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この春はたれにか見せんなき人のかたみに摘める峰のさわらび
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使いには纏頭《てんとう》が出された。
盛りの美しさを備えた人が、いろいろな物思いのために少し面痩《おもや》せのしたのもかえって貴女《きじょ》らしい艶《えん》な趣の添ったように見え、総角《あげまき》の姫君にもよく似ていた。いっしょにいたころはどちらにも特殊な美しさがあって、似ているように見えなかったのであるが、今ではうかとしておれば大姫君であるという錯覚が起こるのを、遺骸《いがい》だけでも永《なが》くとどめてながめていられるものだったならばと、朝夕に恋しがっていた源中納言の夫人になっておいでになればよかったものを、運命のそれを許さなかったのが惜しいと思い、女房たちは残念がっていた。薫《かおる》の家のほうから始終出て来る人があってそちらのこともこちらの様子も双方でよく知っていた。まだ総角の姫君に死別した悲しみに茫然《ぼうぜん》となっていて、涙目の人になっていると中納言のことの言われているのを聞いて中の君は、中納言の姉君に持っていた愛は浅薄なものではなかったと、いっそう今になって身にしむようにその人の恋が思われるのであった。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は宇治へお通いになることが近ごろになっていっそう困難になり、不可能にさえなったために、中の君を京へ迎えようと決心をあそばした。
御所の内宴などがあって騒がしいころを過ごしてから薫は、心一つに納めかねるような愁《うれ》いも、その他のだれに話すことができようと思い、匂宮《におうみや》の御殿をお訪《たず》ねした。しめやかな早春の夕べの空の見える所に宮は出ておいでになった。十三|絃《げん》をお弾《ひ》きになりながら、例のお好きな梅の香を愛してもいられたのである。薫はその梅の花の下の枝を少し折って、手に持ちながらはいって来た。艶《えん》な感じが覚えられることであった。宮はこの早春の夕べにふさわしい客をうれしくお思いになり、
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