なった。お返事、

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跡たえて心すむとはなけれども世を宇治山に宿をこそ借れ
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 宗教のことは卑下してお言いにならず、寂しい人間としての御近況をお報じになったために、院は宮がまだ不平をこの世に持っておいでになるものとして御同情をあそばされた。
 阿闍梨は薫中将が宗教的な人物であることなどをお話しして、
「仏道の学問を深くしたい望みを少年時代から持っているのでございますが、専念にそのほうを勉強いたしますことは、私ごとき頭脳のよろしくないものが、優越者か何かのようにこの世を見下すまちがった態度のように思われますのを、それ自体がまちがったことでしょうが、恐れておりまして、目だたせずしようといたしますために、怠ることにもなり、ほかのことに紛れるようになりいたしまして今日までまいったのですが、けっこうな御境地に達しておられますあなた様のことを承ったものですから、ぜひお教えを得たいと望まれてなりませんなどと丁寧なお言づてを受けてまいりました」
 などと語った。宮は、
「人生をかりそめと悟り、いとわしく思う心の起り始めるのも、その人自身に不幸のあった時と
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