ていた。もう二十七、八であったから風采《ふうさい》もりっぱになっていて、妹たちを父の望んでいたようにはなやかな後宮の人として見たく思っているのである。庭の花の木の中でもことに美しい桜の枝を折らせて、姫君たちが、
「この花が一番いいのね」
 などと言って楽しんでいるのを見て、中将が、
「あなたがたが子供の時に、この桜の木を私のだ私のだと取り合いをした時に、お父様は姉さんのものだとおきめになって、お母様は小さい人のだとおきめになったから、泣く騒ぎまではしなかったけれど、双方とも不満足な顔をしたことを覚えていますか」
 こんなことを言いだして、また、
「この桜が老い木になったことでも、過ぎ去った歳月が数えられて、力になっていただけたどの方にもどの方にも死に別れてしまった不幸な自分のことが思われる」
 とも言って、泣きもし、笑いもしながら平生ほど時間のたつのを気にせずに中将は母の家にいた。他家の婿になっていて、こちらへ来て静かに暮らす余裕のある日などを持たないのであるが、今日は花に心が惹《ひ》かれて落ち着いているのである。尚侍はまだこうした人々を子にして持っているほどの年になっているとは見えぬ
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