男であったから、女房たちはいろいろな話をしかけるのであるが、静かに言葉少なな応対だけより侍従がしないのをくやしがって、宰相の君という高級の女房が歌を詠《よ》みかけた。

[#ここから2字下げ]
折りて見ばいとど匂《にほ》ひもまさるやと少し色めけ梅の初花
[#ここで字下げ終わり]

 速く歌のできたことを薫は感心しながら、

[#ここから1字下げ]
「よそにては※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]木《もぎき》なりとや定むらん下に匂へる梅の初花
[#ここで字下げ終わり]

 疑わしくお思いになるなら袖《そで》を触れてごらんなさい」
 などと言っていると、また女房は、
「真実《ほんとう》は色よりも香」
 口々にこんなことを言って、引き揺らんばかりに騒いでいるのを、奥のほうからいざって出た玉鬘夫人が見て、
「困った人、あなたたちは。きまじめな人をつかまえて恥ずかしい気もしないのかね」
 とそっと言っていた。きまじめな人にしてしまわれた、あわれむべき名だと源侍従は思った。この家の侍従はまだ殿上の勤めもしていないので、参賀する所も少なくて早く家に帰って来てここへ出て来た。浅香《せんこう》
前へ 次へ
全56ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング