男であったから、女房たちはいろいろな話をしかけるのであるが、静かに言葉少なな応対だけより侍従がしないのをくやしがって、宰相の君という高級の女房が歌を詠《よ》みかけた。
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折りて見ばいとど匂《にほ》ひもまさるやと少し色めけ梅の初花
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速く歌のできたことを薫は感心しながら、
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「よそにては※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]木《もぎき》なりとや定むらん下に匂へる梅の初花
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疑わしくお思いになるなら袖《そで》を触れてごらんなさい」
などと言っていると、また女房は、
「真実《ほんとう》は色よりも香」
口々にこんなことを言って、引き揺らんばかりに騒いでいるのを、奥のほうからいざって出た玉鬘夫人が見て、
「困った人、あなたたちは。きまじめな人をつかまえて恥ずかしい気もしないのかね」
とそっと言っていた。きまじめな人にしてしまわれた、あわれむべき名だと源侍従は思った。この家の侍従はまだ殿上の勤めもしていないので、参賀する所も少なくて早く家に帰って来てここへ出て来た。浅香《せんこう》
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