源氏物語
竹河
紫式部
與謝野晶子訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)常少女《とこをとめ》にて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)秘蔵|息子《むすこ》らしく
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]木
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[#地から3字上げ]姫たちは常少女《とこをとめ》にて春ごとに花あらそひ
[#地から3字上げ]をくり返せかし (晶子)
ここに書くのは源氏の君一族とも離れた、最近に亡《な》くなった関白太政大臣の家の話である。つまらぬ女房の生き残ったのが語って聞かせたのを書くのであるから、紫の筆の跡には遠いものになるであろう。またそうした女たちの一人が、光源氏の子孫と言われる人の中に、正当の子孫と、そうでないのとがあるように思われるのは、自分などよりももっと記憶の不確かな老人が語り伝えて来たことで、間違いがあるのではないかと不思議がって言ったこともあるのであるから、今書いていくことも皆真実のことでなかったかもしれないのである。
玉鬘《たまかずら》の尚侍《ないしのかみ》の生んだ故人の関白の子は男三人と女二人であったが、どの子の未来も幸福にさせたい、どんなふうに、こんなふうにと空想を大臣は描いて、成長するのをもどかしいほどに思っているうちに、突然亡くなったので、遺族は夢のような気がして、大臣の志していた姫君を宮中へ入れることもそのままに捨てておくよりしかたがなかった。世間の人は目の前の勢いにばかり寄ってゆくものであったから、強大な権力をふるっていた関白のあとも、財産、領地などは少なくならないが、出入りする人が見る見る減って、寂しく静かな家になった。玉鬘夫人の兄弟たちは広く栄えているのであるが、貴族たちの肉親どうしの愛は一般人よりもかえって薄いもので、大臣の生きている間さえもそう親密に往来をしなかった上に、大臣が少し思いやりのない、むら気な性質で恨みを買うこともしたためにか、遺族の力になろうとする人も格別ないのであった。六条院は初めと変わらず子の一人として尚侍を見ておいでになって、御遺言状の遺産の分配をお書きになったものにも、冷泉《れいぜい》院の中宮の次へ尚侍をお加えになった
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