、盲目的な親の愛からでございます。この気持ちを御理解してくださいますならば、なんとか子供の心を慰むるようにお計らいくださいませんか。
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などといたいたしく訴えて来たのを、尚侍は、
「気の毒で困ってしまうばかり」
と歎息《たんそく》をしながら、
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どの道をとりますことが娘の幸福であるかもわからないのですが、院からの仰せがたびたびになるものですから、私は思い悩んでいます。御愛情をお持ちくださるなら、しばらくお忍びくだすって、慰安の方法を私が講じますのを待ってもらいますことが、世間体もよろしいかと思われます。
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こんな返事を書いたのは、姉君の院参を済ませてから妹を与えたいという考えらしい。同時にそれをするのも世間へ見せびらかすようなことにもなるし、少将の官をも少し進ませてからにしたほうがいいからと、こんなふうに玉鬘《たまかずら》夫人は思っているのであったが、男はこの望みどおりに妹の姫君へ恋を移すのは不可能に思っているのである。ほのかに顔を見てからは面影に立つほど恋しくて、どんな日にこの人をまた見ることができるであろうかとばかり歎《なげ》いているのであったから、もう望みのないこととしてあきらめねばならぬことになったのを非常に悲しんだ。今さら何のかいもあることではなくても、なお自分の気持ちだけは通じておきたいと思って、少将が侍従の部屋《へや》へ訪《たず》ねて行くと、その時侍従は源侍従から来た手紙を読んでいたのであって、隠してしまおうとするのを、少将は奪い取ってしまった。秘密があるように思われたくもないと思って、侍従はしいて取り返そうとはしなかった。それは表面にそのことは言わずに、ただなんとなく人生が暗くなったというようなことばかりの書かれた手紙であった。
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つれなくて過ぐる月日を数へつつ物|怨《うら》めしき春の暮れかな
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ともある。こんなふうに、余裕のある恨み方をするだけで足りている人もある。自分があまりに無我夢中になって恋にあせることが一つはこの家の人に好感を与えなかったのであろうと、少将はこんなことを思ってさえも胸の痛くなるのを覚えるために、あまり侍従とも話をせずに、親しくする女房の中将の君の部屋のほうへ歩いて行きながらも、これもむだなことに違い
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