残念に思って、負け方の姫君は、
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桜ゆゑ風に心の騒ぐかな思ひぐまなき花と見る見る
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こんな歌を作った。そのほうにいる宰相の君が、
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咲くと見てかつは散りぬる花なれば負くるを深き怨《うら》みともせず
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と慰める。右の姫君、
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風に散ることは世の常枝ながらうつろふ花をただにしも見じ
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右の女房の大輔《たゆう》、
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心ありて池の汀《みぎは》に落つる花|泡《あわ》となりてもわが方に寄れ
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勝ったほうの童女が庭の花の下へ降りて行って、花をたくさん集めて持って来た。
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大空の風に散れども桜花おのがものぞと掻《か》き集《つ》めて見る
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左の童女の馴君《なれき》がそれに答えて、
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「桜花|匂《にほ》ひあまたに散らさじとおほふばかりの袖《そで》はありやは
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気が狭いというものですね」
などと悪く言う。
そんなことをしているうちにずんずん月日のたっていくことも妙齢の娘たちを持っている尚侍を心細がらせて、一人で姫君たちの将来のことばかりを考えていた。
院からは毎日のように御催促の消息をお送りになった。女御《にょご》からも、
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私を他人のようにお思いになるのですか。院は、私が中ではばんでいるように憎んでおいでになりますから、それはお戯れではあっても、私としてつらいことですから、できますならなるべく近いうちにそのことの実現されますように。
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こんなふうに懇切に言って来た。それが宿命であるために、こうまでお望みになるのであろうから、御辞退するのはもったいないと尚侍は考えるようになった。手道具類は父の大臣がすでに十分の準備をしておいたのであるから、新しく作らせる必要もなくて、ただ女房の装束類その他の簡単な物だけを、娘の院参のために玉鬘夫人は用意していた。姫君の運命が決せられたことを聞いて、蔵人少将は死ぬほど悲しんで、母の夫人にどうかしてほしいと責めた。夫人は困って、
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私の出てまいる問題でないことに私が触れますのも
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