手《はで》な色彩を避けていた。院御自身の直衣《のうし》も色は普通のものであるが、わざとじみな無地なのを着けておいでになるのであった。座敷の中の装飾なども簡素になっていて目に寂しい。

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今はとて荒《あら》しやはてん亡《な》き人の心とどめし春の垣根《かきね》を
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 とお歌いになる院は真心からお悲しそうであった。
 徒然《とぜん》さに院は入道の宮の御殿へおいでになった。若宮も人に抱かれて従っておいでになって、こちらの若宮といっしょに走りまわってお遊びになるのであった。花の木をおいたわりになる責任もお忘れになるくらいにおふざけになった。
 尼宮は仏前で経を読んでおいでになった。たいした信仰によっておはいりになった道でもなかったが、人生になんらの不安もお感じになるものもなくて、余裕のある御身分であるために、専心に仏勤めがおできになり、その他のことにいっさい無関心でおいでになる御様子の見えるのを院はうらやましく思召した。こうした浅い動機で仏の御|弟子《でし》になられた方にも劣る自分であると残念にお思いになるのである。閼伽棚《あかだな》に置かれた花に
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