る春がとどまっているようなのである。若宮が、
「私の桜がとうとう咲いた。いつまでも散らしたくないな。木のまわりに几帳《きちょう》を立てて、切れを垂《た》れておいたら風も寄って来ないだろうと思う」
たいした発明をされたようにこう言っておいでになる顔のお美しさに院も微笑をあそばした。
「覆《おお》うばかりの袖《そで》がほしいと歌った人よりも宮の考えのほうが合理的だね」
などとお言いになって、この宮だけを相手にして院は暮らしておいでになるのであった。
「あなたと仲よくしていることも、もう長くはないのですよ。私の命はまだあっても、絶対にお逢いすることができなくなるのです」
とまた院は涙ぐんでお言いになるのを、宮は悲しくお思いになって、
「お祖母《ばあ》様のおっしゃったことと同じことをなぜおっしゃるの、不吉ですよ、お祖父《じい》様」
と言って、顔を下に伏せて御自身の袖などを手で引き出したりして涙を宮はお隠しになっていた。欄干の隅《すみ》の所へ院はおよりかかりになって、庭をも御簾《みす》の中をもながめておいでになった。女房の中にはまだ喪服を着ているのがあった。普通の服を着ているのも、皆|派
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