様がおっしゃったから」
 とお言いになって、宮は対の前の紅梅と桜を責任があるように見まわっておいでになるのを、院は哀れに思召《おぼしめ》した。
 二月になると、花の木が盛りなのも、まだ早いのも、梢《こずえ》が皆|霞《かす》んで見える中に、女王の形見の紅梅に鶯《うぐいす》が来てはなやかに啼《な》くのを、院は縁へ出てながめておいでになった。

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植ゑて見し花の主人《あるじ》もなき宿に知らず顔にて来居る鶯
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 春の空を仰いで吐息《といき》をおつかれになった。
 春が深くなっていくにしたがって庭の木立ちが昔の色を皆備えてお胸を痛くするばかりであったから、この世でもないほどに遠くて、鳥の声もせぬ山奥へはいりたくばかり院はお思いになるのであった。山吹の咲き誇った盛りの花も涙のような露にぬれているところばかりがお目についた。よそでは一重桜が散り、八重の盛りが過ぎて樺桜《かばざくら》が咲き、藤《ふじ》はそのあとで紫を伸べるのが春の順序であるが、この庭は花の遅速を巧みに利用して、散り過ぎた梢はあとの花が隠してしまうように女王がしてあったために、いつまでも光
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