夕日が照って美しいのを御覧になって、
「春の好きだった人の亡くなってからは、庭の花も情けなくばかり見えるのですが、こうした仏にお供えしてある花には好意が持たれますよ」
 とお言いになった院は、また、
「対の前の山吹《やまぶき》はほかでは見られない山吹ですよ、花の房《ふさ》などがずいぶん大きいのですよ。品よく咲こうなどとは思っていない花と見えますが、にぎやかな派手《はで》なほうではすぐれたものですね。植えた人がいない春だとも知らずに例年よりもまたきれいに咲いているのが哀れに思われます」
 と仰せられた。宮はお返辞に、
「谷には春も」(光なき谷には春もよそなれば咲きてとく散るもの思《も》ひもなし)
 とお言いになるのであった。言うこともほかにありそうなものを自分の悲しみを嘲笑《ちょうしょう》するにあたるようなことをお言いになるとはと院は心に思召《おぼしめ》しながらも、紫の女王はこうした思いやりのないことを言い出すこともすることも最後まで絶対にない女性であったと、少女時代からの故夫人のことを追想してごらんになると、その時はこう、あの時はこうと、才気と貴女らしい匂《にお》いの多かった性格、容姿
前へ 次へ
全29ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング