だら》の供養に列するのであった。例の宵《よい》の仏前のお勤めのために手水《ちょうず》を差し上げる役にあたった中将の君の扇に、

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君恋ふる涙ははてもなきものを今日をば何のはてといふらん
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 と書かれてあったのを、手に取ってお読みになってから、院がまたその横へ、

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人恋ふるわが身も末になりゆけど残り多かる涙なりけり
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 とお書き添えになった。
 九月になり被綿《きせわた》をした菊を御覧になって、

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もろともにおきゐし菊の朝露もひとり袂《たもと》にかかる秋かな
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 と院はお歌いになった。
 十月は時雨《しぐれ》がちな季節であったからいっそう院のお心はお寂しそうで、夕方の空の色なども言いようもなく心細く御覧になるのであって、「いつも時雨は降りしかど」(かく袖《そで》ひづるをりはなかりき)などと口ずさんでおいでになった。空を渡る雁《かり》が翼を並べて行くのもうらやましくお見守られになるのである。

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大空を通ふまぼろし夢にだに
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