らどうするかをよく聞いてあるようだから、それに加えてすることも皆僧都の意見によることにしようと思う」
 と院は仰せられた。
「御自身の御法要についてのことまでもお仕度《したく》をあそばしておかれましたことは、お考え深いことでしたが、お二方の上で申しますと、この世での御縁は短かったのですから、せめて形見になる人をお残しくだすったらと存じますと残念でございます」
「しかし子は早く死なずに現存している妻のほうにも少なかったのだからね。私自身が子は少なくしか持てない宿命だったのだろう。あなたによって子孫を広げてもらえばいい」
 などと院はお言いになるのであって、何につけても忍びがたい悲しみの外へ誘い出されることをお恐れになり、故人のこともあまりお話しにならぬうちに、「いにしへのこと語らへば時鳥《ほととぎす》いかに知りてか古声《ふるごゑ》に啼《な》く」と言いたいような杜鵑《ほととぎす》が啼いた。待たれていた声なのであるが、

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亡《な》き人を忍ぶる宵《よひ》の村雨《むらさめ》に濡《ぬ》れてや来つる山ほととぎす
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 前よりもいっそう悲しいまなざしで空
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