身生活というものは、私一人が経験しているものでもないが、怪しいほど寂しいものだ。山へはいってしまう前にこうして習慣をつけておくことは非常によいことだと思う」
 などと院はお言いになって、
「女房たち、ここへ菓子でも出すがよい。男たちに命じるほどのことでもないから」
 などとも気をつけておいでになった。夕霧は空をおながめになる院の寂しい御表情を見ていて、こんなふうにいつまでもいつまでも故人を悲しんでおいでになっては、出家をされても透徹した信仰におはいりになることはむずかしくはないかと思っていた。ほのかな隙見《すきみ》をしただけの面影すら忘られないのであるからまして院が女王のためのお悲しみの深さは道理至極であると言わねばならぬと同情も申していた。
「昨日か今日のことのように思っておりますうちに御一周忌にももう近づいてまいります。御法事はどんなふうにあそばすおつもりでございますか」
 と大将が言うと、
「何も普通と違ったことをしようと思っていない。女王が作らせたままになっている極楽の曼陀羅《まんだら》をその節に供養すればいいことと思う。書いておいた経もたくさんあるはずなのだが、某僧都は故人か
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