。少女時代から自分が育て上げてきた人といっしょに年をとってしまった今になって、一人だけが残されて一方が亡《な》くなってしまったということが、みずから憐《あわれ》まれもし、故人を悲しまれもして、その時あの時と、あの人の感情の美しさの現われた時とかあの人の芸術とか複雑にいろいろなことが思わせられるために、深い哀愁に落ちていくのです」
 などと、夜がふけるまで、昔をも今をも話しておいでになって、このまま明石夫人のところで泊まっていってもよい夜であるがとはお思いになりながら院のお帰りになるのを見て、明石夫人は一抹《いちまつ》の物足りなさを感じたに違いない。院も御自身のことではあるが、怪しく変わってしまった心であるとお思いになった。
 お帰りになるとまた仏勤めをあそばして夜中ごろに昼のお居間で仮臥《かりぶし》のようにしてお寝《やす》みになった。
 翌朝早く院は明石《あかし》夫人へ手紙をお書きになった。

[#ここから2字下げ]
泣く泣くも帰りにしかな仮の世はいづくもつひのとこよならぬに
[#ここで字下げ終わり]

 という歌であった。昨夜《ゆうべ》の院のお仕打ちは恨めしかったのであるが、こんなふ
前へ 次へ
全29ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング