と申すことはあまりほめられないことになっているではございませんか。もうしばらく御|発心《ほっしん》をお延ばしになりまして、宮様がたも大人におなりになり御不安なことなどはいっさいないころまで、このままで御家族に動揺をお与えあそばさないようにしていただけましたらうれしかろうと存じます」
などとまじめに言っている明石に院は好感をお持ちになることができた。
「そんなになるまで待っていることが思慮深いのだったら、それよりもあさはかなほうがましなようだね」
などとお言いになって、昔から悲しいことに多くあっておいでになった話もあそばされた。
「昔、中宮がお崩《かく》れになった春には、桜が咲いたのを見ても、『野べの桜し心あらば』(深草の野べの桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け)と思われたものですよ。それはごりっぱな方であることが小さいころから心にしみ込んでいたために、お崩れになった時にも私がだれよりもすぐれて悲しかったのです。恋愛の深さ浅さと故人を惜しむ情とは別なものだと思う。長く同棲《どうせい》した妻に別れて、病的にまで悲しんで、その人が忘れられないのも恋愛の点ばかりでそうなのではありませんよ
前へ
次へ
全29ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング