[#ここから2字下げ]
惜しからぬこの身ながらも限りとて薪《たきぎ》尽きなんことの悲しさ
[#ここで字下げ終わり]
夫人の心細い気持ちに共鳴したふうのものを返しにしては、認識不足を人から譏《そし》られることであろうと思って、明石はそれに触れなかった。
[#ここから2字下げ]
薪こる思ひは今日を初めにてこの世に願ふ法《のり》ぞはるけき
[#ここで字下げ終わり]
経声も楽音も混じっておもしろく夜は明けていくのであった。朝ぼらけの靄《もや》の間にはいろいろの花の木がなお女王の心を春に惹《ひ》きとどめようと絢爛《けんらん》の美を競っていたし春の小鳥のさえずりも笛の声に劣らぬ気がして、身にしむこともおもしろさもきわまるかと思われるころに、「陵王《りょうおう》」が舞われて、殿上の貴紳たちが舞い人へ肩から脱いで与える纏頭《てんとう》の衣服の色彩などもこの朝はただ美しくばかり思われた。親王がた、高官らも音楽に名のある人はみずからその芸を惜しまずこの場で見せて遊んだ。上から下まで来会者が歓楽に酔っているのを見ても、余命の少ないことを知っている夫人の心だけは悲しかった。
昨日は例外に終日起
前へ
次へ
全25ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング