この手紙を持って、少将はずんずん宮家へはいって来た。南の縁側に敷き物を出したが、女房たちは応接に出るのを気づらく思った。まして宮はわびしい気持ちになっておいでになった。この人は兄弟の中で最も風采《ふうさい》のよい人で、落ち着いた態度で邸《やしき》の中を見まわしながらも、亡《な》き兄のことを思い出しているふうであった。
「始終伺っている所のような気になって私はいるのですが、そちらでは親しい者とお認めくださらないかもしれませんね」
 などと皮肉を少し言う。大臣への返事をしにくく宮は思召して、
「私にはどうしても書かれない」
 こうお言いになると、
「お返事をなさいませんと、あちらでは礼儀のないようにお思いになるでございましょうし、私どもが代わって御|挨拶《あいさつ》をいたしておいてよい方でもございませんから」
 女房たちが集まって、なおもお書きになることをお促しすると、宮はまずお泣きになって、御息所《みやすどころ》が生きていたなら、どんなに不愉快なことと自分の今日のことを思っても、身に代えて罪は隠してくれるであろうと母君の大きな愛を思い出しながら、お書きになる紙の上には、墨よりも涙のほ
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