あるが、この恋が味気なくなって、もうしいて宮の御|機嫌《きげん》をとろうとも努めずに歎き明かした。こんなみじめなことで来たり出て行ったりすることもきまり悪くこの人は思って、今日はこちらにとどまっていることにして落ち着いているのにも、宮は反感がお持たれになって、いよいようといふうをお見せになることが増してくるのを、幼稚なお心の方であると、恨めしく思いながらも哀れに感じていた。蔵《くら》の中も別段細かなものがたくさん置かれてあるのでなく、香の唐櫃《からびつ》、お置き棚《だな》などだけを体裁よくあちこちの隅《すみ》へ置いて、感じよく居間に作って宮はおいでになるのである。中は暗い気のする所へ、出たらしい朝日の光がさして来た時に、夕霧は被《かず》いでおいでになる宮の夜着の端をのけて、乱れたお髪《ぐし》を手でなで直しなどしながらお顔を少し見た。上品で、あくまで女らしく艶《えん》なお顔であった。男は正しく装っている時以上に、部屋の中での柔らかな姿が顔を引き立ててきれいに見えた。柏木《かしわぎ》が普通の風采《ふうさい》でしかないのにもかかわらず思い上がり切っていて、宮を美人でないと思うふうを時々見せた
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