を、あらわに言葉にして言うのをお聞きになっては、ただ困ったこととお思われになって、いっそうものを多くお言いにならぬことになったのを、大将は歎息《たんそく》していて、心の中ではこんな機会はまたとあるわけもない、思い切ったことは今でなければ実行が不可能になろうとみずからを励ましていた。同情のない軽率な人間であるとお思われしてもしかたがない、せめて長く秘めてきた苦しい思いだけでもおささやきしたいと思った大将は、従者を呼ぶと、もとは右近衛府《うこんえふ》の将監《しょうげん》であって、五位になった男が出て来た。大将は近く招いて、
「こちらへ来ておられる律師にぜひ逢《あ》って話すことがあるのだが、御病人の護身の法などをしておられて疲れておられる律師は休息もしなければならないことと思うから、私はこちらで泊まって、初夜のお勤めを終わられたころに律師のいるほうへ行こうと思う。二、三人だけはこの山荘のほうへ人を残しておいて、そのほか随身などの者は栗栖野《くるすの》の荘《しょう》が近いはずだから、そのほうへ皆やって、馬に糧秣《まぐさ》をやったりさせることにして、ここで騒がしく人声などは立てさせぬようにしてく
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