に御息所《みやすどころ》は煩悶《はんもん》したことであろう、今日さえまだ手紙が送ってないということは、新婚の良人《おっと》としていえばきわめて無情な態度である。露骨に言わずに自分の行くのを促してある消息を受けていながら、自分を待ちつけることがしまいまでできずに今朝になったのであったかと思うと、大将は妻が恨めしくも憎くも思われた。無法なことをして大事な手紙を隠させるようなしぐさも皆自分がつけさせたわがままな癖であると思うと、自分自身にすら反感を覚えて泣きたい気がした。これからすぐに行こうと夕霧は思うのであったが、たやすく宮は逢《あ》おうとなされないであろうということは予想されることであったし、妻はこうして昨日から嫉妬《しっと》をし続けているのであるし、それに今日が坎日《かんにち》にあたることはもし宮のお心が解けた場合を考えると、永久に幸福を得なければならぬ結婚の最初に避けなければならぬことでもあるからと、まじめな性格からは、恋しい方との将来に不安がないように慎重に事をすべきであると考えられて、行くことはおいて、まず御息所への返事を書いた。
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珍しいお手紙を拝見いたし
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