珍しく山から下っていられる某律師にぜひ逢《あ》って相談をしなければならぬことがあったし、御病気の御息所の別荘へお見舞いもしがてらに小野へ行こうと思う」
と何げなく言って大将は邸《やしき》を出た。前駆もたいそうにはせず親しい者五、六人を狩衣《かりぎぬ》姿にさせて大将は伴ったのである。たいして山深くはいる所ではないが、松が崎《さき》の峰の色なども奥山ではないが、紅葉《もみじ》をしていて、技巧を尽くした都の貴族の庭園などよりも美しい秋を見せていた。そこは簡単な小柴垣《こしばがき》なども雅致のあるふうにめぐらせて、仮居ではあるが品よく住みなされた山荘であった。寝殿ともいうべき中央の建物の東の座敷のほうに祈祷の壇はできていて、北側の座敷が御息所の病室となっているために、西向きの座敷に宮はおいでになった。物怪を恐れて御息所は宮を京の邸へおとどめしておこうとしたのであるが、どうしてもいっしょにいたいとついておいでになった宮を、物怪のほかへ散るのを恐れて少しの隔てではあるが病室へはお近づけ申し上げないのである。客を通す座敷がないために、宮のおいでになる室とは御簾《みす》で隔てになった西の縁側についた
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