羞恥《しゅうち》心から出入りもしなくなっているのである。それに比べて大将は非常に上手《じょうず》な方法をとったものといわねばならない。
修法をさせていると聞いて大将は僧たちへ出す布施や浄衣の類までも細かに気をつけて山荘へ贈ったのであった。その際病人の御息所は返事を書くべくもない容体であったし、女房から挨拶《あいさつ》書きなどを出しておいては、先方の好意が徹底しなかったもののようにお思いになるであろうし、宮様がお高ぶりになりすぎるようにもお思われになるであろうからと女房らがお願いしたために、宮が引き受けて礼状をお書きになった。美しい字のおおような短いお手紙ではあるが、なつかしい味のあるものであったから、いよいよ大将の心は傾いて、それ以後たびたびお手紙を差し上げるようになった。結局自分の疑いは疑いでなくなってゆきそうであると、雲井《くもい》の雁《かり》夫人が早くも観察していることにはばかられて、大将は小野の山荘を訪ねたく思いながらも実行をしかねていた。
八月の二十日ごろで、野のながめも面白いころなのであるから、山荘住まいをしておいでになる恋人を大将はお訪ねしたい心がしきりに動いて、
「
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