お襖子《からかみ》のことだけは少し誇張をいたしまして、しまいまで皆はあいたのでないように申し上げておきましたから、もしくわしいお話を聞こうとなさいましたら、私のと同じようにおっしゃってくださいまし」
 こう小少将が言った。御息所が悲しんでいることは申さない。宮はそれでお呼びになったのであると、いっそう侘《わび》しい気におなりになり、何も仰せられなかったが、お枕《まくら》から雫《しずく》が落ちていた。この問題だけではなく、自分の意志でなくした結婚からこの方、母に物思いばかりをさせる自分であると、宮は子としてのかいのないことを悲しんでおいでになって、あの大将もこのままで心をひるがえすことはせずに、いろいろと自分を苦しめるであろうことが煩わしい、それについて立つ噂《うわさ》もあろうと御|煩悶《はんもん》をあそばした。弁明することのできない弱い女の自分は、無根のことでどんなに悪名をきせられることになるのであろうと、穢《けが》れのない自信は持っておいでになるのであるが、皇女に生まれた者があれほど異性と近くいて夜の何時間かを過ごしたというようなことはありうることでなく、あってよいわけのものでもない
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