い気がする」
 御息所は目に涙を浮かべてこう言っているのであった。
 小少将は宮のお居間へ帰って、御息所の最後の言葉だけをお伝えした。宮は母君の所へ行こうとあそばされて、額髪の涙でかたまったのをお直しになり、お召し物の綻《ほころ》んでいた単衣《ひとえ》をお着かえになっても、お気が進まないでじっとすわっておいでになるのであった。この女房たちもどう自分を見ているのであろう、御息所も今は何もお知りにならないで、あとで少しでも昨夜のことをお聞きになることがあったなら、素知らぬ顔をしていたと今日の自分が思われることであろうとお考えになると、非常に恥ずかしくおなりになり、宮はまた横になっておしまいになって、
「私はどうも気分がよくない。このまま病気になって死んでしまうのはいいことだけれどね、脚《あし》からのぼせ上がってきたようだから」
 とお言いになり、宮は脚をお揉《も》ませになった。あまり物思いをあそばすためにおのぼせになったのである。
「御息所に昨晩のことをほのめかしてお話しした人があったのでございますよ。ほんとうのことが聞きたいとお言いになるものでございますから、正直にお話しいたしましたが、
前へ 次へ
全56ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング