いた人であるが、院も御息所《みやすどころ》も御同意のもとでお嫁《とつ》がせになって自分はその人の妻になったのである、その良人《おっと》すら自分に対していだいていた愛はいささかなものであった、ましてこうしてあるまじい恋に堕《お》ちては、しかも知らぬ中でなく、故人の妹を妻に持つこの人との名が立っては、太政大臣家ではどう自分を不快に思うことであろう、世間で譏《そし》られることも想像されるが、それよりも院がお聞きになってどう思召すであろう、必ずお悲しみあそばすであろうなどと、切り離すことのできぬ関係の所々のことをお考えになると、このことが非常に情けなくお思われになって、自分はやましいところもなく、大将の情人では断じてなくとも噂《うわさ》はどんなふうに立てられることか、御息所が少しも関与しておいでにならぬことが子として罪であるように思召され、こんなことをあとでお聞きになり、幼稚な心からときがたい誤解の原因を作ったとお言いになろうこともわびしく御想像あそばされる宮は、
「せめて朝までおいでにならずにお帰りなさい」
 と大将をお促しになるよりほかのことはおできにならないのである。
「悲しいことですね
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