身体《からだ》は隣の間へはいっていたのであるが、お召し物の裾《すそ》がまだこちらに引かれていたのである。襖子は隣の室の外から鍵《かぎ》のかかるようにはなっていないために、それをおしめになったままで、水のように宮は慄《ふる》えておいでになった。女房たちも呆然《ぼうぜん》としていていかにすべきであるかを知らない。こちらの室には鍵があっても、この場合をどうすればよいかに皆当惑したのである。無理やりに荒々しく手を宮のお召し物から引き放させるようなこともできる相手ではなかった。
「御尊敬申し上げておりますあなた様がこんなことをなさいますとは思いもよらぬことでございます」
と言って、泣かんばかりに退去を頼むのであるが、
「これほどの近さでお話を申し上げようとするのを、なぜあなたがたは不思議になさるのでしょう。つまらぬ私ですが、真心をお見せすることになって長い年月も重なっているはずです」
と女房らに答えてから、大将は優美な落ち着きを失わずに、美しいこの恋を成り立たせなければならぬことを宮へお説きするのであった。宮は御同意をあそばすべくもない。こんな侮辱までも忍ばねばならぬかというお気持ちばかりが
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