お襖子《からかみ》のことだけは少し誇張をいたしまして、しまいまで皆はあいたのでないように申し上げておきましたから、もしくわしいお話を聞こうとなさいましたら、私のと同じようにおっしゃってくださいまし」
 こう小少将が言った。御息所が悲しんでいることは申さない。宮はそれでお呼びになったのであると、いっそう侘《わび》しい気におなりになり、何も仰せられなかったが、お枕《まくら》から雫《しずく》が落ちていた。この問題だけではなく、自分の意志でなくした結婚からこの方、母に物思いばかりをさせる自分であると、宮は子としてのかいのないことを悲しんでおいでになって、あの大将もこのままで心をひるがえすことはせずに、いろいろと自分を苦しめるであろうことが煩わしい、それについて立つ噂《うわさ》もあろうと御|煩悶《はんもん》をあそばした。弁明することのできない弱い女の自分は、無根のことでどんなに悪名をきせられることになるのであろうと、穢《けが》れのない自信は持っておいでになるのであるが、皇女に生まれた者があれほど異性と近くいて夜の何時間かを過ごしたというようなことはありうることでなく、あってよいわけのものでもないとお思いになることで、御自身の運命がお悲しまれになり、憂鬱《ゆううつ》にされておいでになったが、夕方にまた、
「ぜひおいでなさいますように」
 と、御息所のほうから言って来たので、間にある座敷倉の戸を、向こうとこちらと両方であけて宮は御息所の東の病室へおいでになった。
 病苦がありながらも御息所はうやうやしく宮をお取り扱いした。平生の作法どおりに起き上がってもいた。
「だらしなくいたしているのでございますから、お迎えいたしますことも心が引けてなりません。ただ二、三日だけお目にかからなかったのでございますのを、何年もお逢《あ》いすることのできなかったほど寂しく思われますのも味気ないことでございます。親子の縁では未来で必然的にお逢いできますともきまらないのでございますからね。もう一度生まれてまいりましてもだめなのでございますのに、考えますれば瞬間で永遠の別れになりますわれわれがあまりに愛し過ぎて暮らしましたのが、後悔いたされます」
 などと、御息所は泣くのであった。宮もいろいろなことがお心にあってお悲しい時で、何もお言いになることができずに、ただ母君の顔をながめておいでになった。非常にお内
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