えがたいことであろうと悔いた。
「襖子《からかみ》はしめたままでございました」
などと、今になって、少しでもよいように取りなそうと努めるのであったが、そんなことはどうでも、なぜそんなに近くへ男の寄って来るようなことを宮がおさせになったかと思うと悲しい。やましいところはおありにならなくても、さっき聞いたようなことを言って騒いでいる律師の弟子たちは、宮様のためにこれは不利であると思って隠すようなことをするはずもない、どう人に言いわけをすればいいことかわからない、絶対にないことと打ち消すことはしなければなるまい、何にしても心の幼稚な女房ばかりがお付きしていてとも思う心を御息所は口へ出しては言えなかった。病気が重い上に大きい衝動を受けたのであったからこの人はいたましいほどにも苦しんだ。神聖な方としてお守《も》り立てしていきたかった宮様も、世間の女並みに浮き名を立てられておしまいになることがもってのほかに思われてならなかった。
「今日のような私の気分の少しよい間に、宮様がこちらへおいでくださるように申し上げなさい。あちらへ伺うはずだけれど動けそうではないのだからね。ずいぶんながくお目にかからない気がする」
御息所は目に涙を浮かべてこう言っているのであった。
小少将は宮のお居間へ帰って、御息所の最後の言葉だけをお伝えした。宮は母君の所へ行こうとあそばされて、額髪の涙でかたまったのをお直しになり、お召し物の綻《ほころ》んでいた単衣《ひとえ》をお着かえになっても、お気が進まないでじっとすわっておいでになるのであった。この女房たちもどう自分を見ているのであろう、御息所も今は何もお知りにならないで、あとで少しでも昨夜のことをお聞きになることがあったなら、素知らぬ顔をしていたと今日の自分が思われることであろうとお考えになると、非常に恥ずかしくおなりになり、宮はまた横になっておしまいになって、
「私はどうも気分がよくない。このまま病気になって死んでしまうのはいいことだけれどね、脚《あし》からのぼせ上がってきたようだから」
とお言いになり、宮は脚をお揉《も》ませになった。あまり物思いをあそばすためにおのぼせになったのである。
「御息所に昨晩のことをほのめかしてお話しした人があったのでございますよ。ほんとうのことが聞きたいとお言いになるものでございますから、正直にお話しいたしましたが、
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