と院はお言いになり、
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心もて草の宿りを厭《いと》へどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ
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ともおささやきになった。琴をお出させになって珍しく院はお弾《ひ》きになった。宮は数珠《じゅず》を繰るのも忘れて院の琴の音を熱心に聞き入っておいでになる。月が上がってきてはなやかな光に満ちた空も人の心にはしみじみと秋を覚えさせた。院は移り変わることのすみやかな人生を寂しく思い続けておいでになって平生よりも深く身にしむ音をかき立てておいでになった。毎年の例のように今夜は音楽の遊びがあるであろうとお思いになって、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮が来訪された。左大将も若い音楽に趣味を持つ人々を伴って参院したのであるが、こちらの御殿で琴の音のするのを聞いて出て来た。
「退屈でね、わざとする会合というほどのことでなしに、しばらく聞かれなかった音楽を人が来て聞かせてくれないだろうかと思って、誘い出すことが可能かどうかと、まず一人で始めていたのを、よく聞きつけて来てもらえたね」
と院はお言いになった。宮のお席もこちらへ作らせてお招じになった。今夜は御所で月見の宴のあるはず
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