えてあった。仏前の名香《みょうこう》には支那の百歩香《ひゃくぶこう》がたかれてある。阿弥陀《あみだ》仏と脇士《わきし》の菩薩《ぼさつ》が皆|白檀《びゃくだん》で精巧な彫り物に現わされておいでになった。閼伽《あか》の具はことに小さく作られてあって、白玉《はくぎょく》と青玉《せいぎょく》で蓮の花の形にした幾つかの小|香炉《こうろ》には蜂蜜《はちみつ》の甘い香を退《の》けた荷葉香《かようこう》が燻《く》べられてある。経巻は六道を行く亡者《もうじゃ》のために六部お書かせになったのである。宮の持経は六条院がお手ずからお書きになったものである。これを御仏《みほとけ》への結縁としてせめて愛する者二人が永久に導かれたい希望が御|願文《がんもん》に述べられてあった。朝夕に読誦《どくじゅ》される阿弥陀経は支那の紙ではもろくていかがかと思召《おぼしめ》され、紙屋《かんや》川の人をお呼び寄せになり特にお漉《す》かせになった紙へ、この春ごろから熱心に書いておいでになったこの経巻は、片端を遠く見てさえ目がくらむ気のされるものであった。罫《けい》に引いた黄金の筋よりも墨の跡がはるかに輝いていた。軸、表紙、箱に用いら
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