れた好みの優雅さはことさらにいうまでもない。この巻き物は特に沈《じん》の木の華足《げそく》の机《つくえ》に置いて、仏像を安置した帳台の中に飾ってあった。堂の準備ができて講師が座に着き行香《ぎょうこう》をする若い殿上人などが皆そろった時に、院もその仏間のほうへおいでになろうとして、尼宮の西の庇《ひさし》のお座敷へまずはいって御覧になると、狭い気のするこの仮のお居間の中に、暑いほどにも着飾った女房が五、六十人集まっていた。童女などは北側の室《へや》の外の縁にまで出ているのである。火入れがたくさん出されてあって、薫香《たきもの》をけむいほど女房たちが煽《あお》ぎ散らしているそばへ院はお寄りになって、
「空《そら》だきというものは、どこで焚《た》いているかわからないほうが感じのいいものだよ。富士の山頂よりももっとひどく煙の立っているのなどはよろしくない。説教の間は物音をさせずに静かに細かく話を聞かなければならないものだから、無遠慮に衣擦《きぬず》れや起《た》ち居の音はなるべくたてぬようにするがいい」
などと、例の軽率な若い女房などをお教えになった。宮は人気《ひとげ》に押されておしまいになり、小さいお美しい姿をうつ伏せにしておいでになる。
「若君をここへ置かずに、どちらか遠い部屋《へや》へ抱いて行くがよい」
とまた院は女房へ注意をあそばされた。北側の座敷との間も今日は襖子《からかみ》がはずされて御簾《みす》仕切りにしてあったが、そちらの室《へや》へ女房たちを皆お入れになって、院は尼宮に今日の儀式についての心得をお教えになるのであったが、その方を可憐《かれん》にばかりお思われになった。昔の鴛鴦《えんおう》の夢の跡の仏の御座《みざ》になっている帳台が御簾越しにながめられるのも院を物悲しくおさせすることであった。
「こんな儀式をあなたのためにさせる日があろうなどとは予想もしなかったことですよ。これはこれとして来世の蓮《はす》の花の上では睦《むつ》まじく暮らそうと期していてください」
と言って院はお泣きになった。
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蓮葉《はちすば》を同じうてなと契りおきて露の分かるる今日《けふ》ぞ悲しき
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硯《すずり》に筆をぬらして、香染めの宮の扇へお書きになった。宮が横へ、
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隔てなく蓮《はちす》の宿をちぎりても君が
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