めしかった。
大将は柏木《かしわぎ》が命の終わりにとどめた一言を心一つに思い出して何事であったかいぶかしいと院に申し上げて見たく思い、その時の御表情などでお心も読みたいと願っているが、淡《うす》くほのかに想像のつくこともあるために、かえって思いやりのないお尋ねを持ち出して不快なお気持ちにおさせしてはならない、きわめてよい機会を見つけて自分は真相も知っておきたいし、故人が煩悶《はんもん》していた話もお耳に入れることにしたいと常に思っていた。
物哀れな気のする夕方に大将は一条の宮をお訪《たず》ねした。柔らかいしめやかな感じがまずして宮は今まで琴などを弾《ひ》いておいでになったものらしかった。来訪者を長く立たせておくこともできなくて、人々はいつもの南の中の座敷へ案内した。今までこの辺の座敷に出ていた人が奥へいざってはいった気配《けはい》が何となく覚えられて、衣擦《きぬず》れの音と衣の香が散り、艶《えん》な気分を味わった。いつもの御息所《みやすどころ》が出て来て柏木の話などを双方でした。自身の所は人出入りも多く幾人もの子供が始終家の中を騒がしくしているのに馴《な》れている大将には御殿の中の
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