始めてむずがゆい気のする歯で物が噛《か》みたいころで、竹の子をかかえ込んで雫《しずく》をたらしながらどこもかも噛《か》み試みている。
「変わった風流男だね」
 と院は冗談《じょうだん》をお言いになって、竹の子を離させておしまいになり、

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憂《う》きふしも忘れずながらくれ竹の子は捨てがたき物にぞありける
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 こんなことをお言いかけになるが、若君は笑っているだけで何のことであるとも知らない。そそくさと院のお膝《ひざ》をおりてほかへ這《は》って行く。月日に添って顔のかわいくなっていくこの人に院は愛をお感じになって、過去の不祥事など忘れておしまいになりそうである。この愛すべき子を自分が得る因縁の過程として意外なことも起こったのであろう。すべて前生の約束事なのであろうと思召《おぼしめ》されることに少しの慰めが見いだされた。自分の宿命というものも必ずしも完全なものではなかった。幾人かの妻妾《さいしょう》の中でも最も尊貴で、好配偶者たるべき人はすでに尼になっておいでになるではないかとお思いになると、今もなお誘惑にたやすく負けておしまいになった宮がお恨
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