章もある。この同じ所へ来るようにとのお言葉は何でもない僧もよく言うことであるが、この作者は御実感そのままであろうとお思いになると、法皇はそのとおりに思召すであろう、寄託を受けた自分が不誠実者になったことでもお気づかわしさが倍加されておいでになるであろうのがおいたわしいと院はお思いになった。宮はつつましやかにお返事をお書きになって、お使いへは青鈍《あおにび》色の綾《あや》の一襲《ひとかさね》をお贈りになった。宮がお書きつぶしになった紙の几帳《きちょう》のそばから見えるのを、手に取って御覧になると、力のない字で、
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うき世にはあらぬところのゆかしくて背《そむ》く山路に思ひこそ入れ
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とある。
「あなたを御心配していらっしゃる所へ、あらぬ山路へはいりたいようなことを言っておあげになっては悪いではありませんか」
こう院はお言いになるのであった。出家後は前にいても顔をなるべく見られぬようにと宮はしておいでになった。美しい額の髪、きれいな顔つきも、全く子供のように見えて非常に可憐《かれん》なのを御覧になると、なぜこんなふうにさせてしまったかと後
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