られた自然薯《じねんじょ》が、新鮮な山里らしい感じを出しているのを快く思召《おぼしめ》[#ルビの「おぼしめ」は底本では「おほしめ」]されて、宮へお贈りになるのであったが、いろいろなことをお書きになったあとへ、
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春の野山は霞《かすみ》に妨げられてあいまいな色をしていますが、その中であなたへと思ってこれを掘り出させました。少しばかりです。

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世を別れ入りなん道は後《おく》るとも同じところを君も尋ねよ

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それを成就させるためには、より多く仏の御弟子《みでし》として努めなければならないでしょう。
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 法皇のお手紙を涙ぐみながら宮が読んでおいでになる所へ院がおいでになった。宮が平生に違って寂しそうに手紙を読んでおいでになり、漆器の広蓋《ひろぶた》などが置かれてあるのを、院はお心に不思議に思召されたが、それは御寺から送っておつかわしになったものだった。御黙読になって院も身に沁《し》んでお思われになるお手紙であった。もう今日か明日かのように老衰をしていながら、逢うことが困難なのを飽き足らず思うというような
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