は皆おろされてだれも寝てしまっていた。一条の宮に恋をして親切がった訪問を常にするというようなことを、夫人へ言う者があったために、今夜のようにほかで夜ふかしをされるのが不愉快でならない夫人は、良人《おっと》が室内《へや》へはいって来たことも知りながら寝入ったふうをしているものらしい。「妹《いも》とわれといるさの山の山あららぎ」(手をとりふれぞや、かほまさるかにや)と美しい声で歌いながらはいって来た大将は、
「どうしてこんなに早く戸を皆しめてしまったのだろう。引っ込み思案な人ばかりなのだね。こんな月夜の景色《けしき》をだれも見ようとしないなど」
と歎息《たんそく》して格子を上げさせ、御簾《みす》を巻き上げなどして縁に近く出て横たわっていた。
「こんなよい晩に眠ってしまう人があるものですか。少し出ていらっしゃい。つまらないじゃありませんか」
などと夫人へ言うのであるが、おもしろく思っていない夫人は何とも言わないのである。子供が寝おびれて何か言っている声があちこちにして、女房もその辺の部屋《へや》にたくさん寝ている、このにぎわしい自宅の夜と、一条邸の夜とのあまりにも相違しているのを大将は思
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