ましてお吹きくださいませば、前駆の声に混じります音を楽しんで聞かせていただけるでしょう」
と御息所は言った。
「つたない私がいただいてまいることは似合わしくないことでしょう」
こう言いながら大将は手に取って見た。これも始終柏木が使っていて、自分もこの笛を生かせるほどには吹けない。自分の愛する人に与えたいとこんなことを柏木の言うのも聞いたことのある大将であったから、故人の琴に対した時よりもさらに多くの感情が動いた。試みに大将は吹いてみるのであったが、盤渉《ばんしき》調を半分ほど吹奏して、
「故人を忍んで琴を弾きましたことはとにかく、これは晴れがましいまばゆい気がいたされます」
こう挨拶《あいさつ》して立って行こうとする時に、
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露しげき葎《むぐら》の宿にいにしへの秋に変はらぬ虫の声かな
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と御息所が言いかけた。
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横笛の調べはことに変はらぬをむなしくなりし音《ね》こそ尽きせね
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返歌をしてもまだ去りがたくて大将がためらっているうち深更になった。
自宅に帰ってみると、もう格子など
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