芸の洗練された名手が熱心にお弾《ひ》きになるのであるから、すごい気分のような透徹した音を、美しく少しだけお聞かせになっておやめになったのを、大将は恨めしいまでに飽き足らず思うのであるが、
「風流狂じみましたことをいろいろお目にかけてしまいました。秋の夜を無限におじゃまいたしておりましては故人からとがめられる気もいたしますから、もうお暇《いとま》をいたしましょう。また別の日に新しい気持ちで御訪問をいたします。この楽器をこのままにしてお待ちくださるでしょうか。意外なことが起こらないともかぎらない人生のことですから不安なのです」
 などと言って、正面から恋を告げようとはしないのであるが、におわせるほどには言葉に盛って大将は帰ろうとした。
「今夜の御風流は非難いたす者もございませんでしょう。昔の日の話をお補いくださいます程度にしかお聞かせくださいませんでしたのが残り多く思われてなりません」
 と言い、御息所は大将への贈り物へ笛を添えて出した。
「この笛のほうは古い伝統のあるものと伺っておりました。こんな女|住居《ずまい》に置きますことも、有名な楽器のために気の毒でございますから、お持ちください
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