な風の身にしむように吹き込んでくるのにお誘われになって、宮は十三絃をほのかにお掻《か》き鳴らしになるのであった。この情趣に大将の心はいっそう惹《ひ》かれて、より多くを望む思いから、琵琶《びわ》を借りて想夫恋《そうふれん》を弾き出した。
「自信のあるものらしく見えますのが恥ずかしゅうございますが、この曲だけはごいっしょにあそばしてくだすってよい理由のあるものですから」
 と大将は御簾《みす》の奥へ合奏をお勧めするのであるが、他のものよりも多く羞恥《しゅうち》の感ぜられる曲に宮はお手を出そうとあそばさない。ただ琵琶の音に深く身にしむ思いを覚えてだけおいでになる宮へ、

[#ここから2字下げ]
ことに出《い》で言はぬを言ふにまさるとは人に恥ぢたる気色《けしき》とぞ見る
[#ここで字下げ終わり]

 と大将が言った時、宮はただ想夫恋の末のほうだけを合わせてお弾きになった。

[#ここから2字下げ]
深き夜の哀ればかりは聞きわけどことよりほかにえやは言ひける
[#ここで字下げ終わり]

 ともお言いになるのであった。非常におもしろいお爪音《つまおと》であって、おおまかな音《ね》の楽器ではあるが、
前へ 次へ
全26ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング